感情は波のように


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また波が来た。今度はとても大きな波だ。10メートル前後だ。僕の身長の6倍から7倍というところだろうか。その波はいつものように、僕を大きな海へとさらっていった。 「かわいそうに。」 誰かの声が聞こえる。
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僕は全く抵抗していなかった。
波からのレイプ。僕はただ身を任せる。
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死にたかった。
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その一部始終を外から見ている、君。
本当に気持ちわりいよ。上がっている口角が見える。 「くそが」 僕は思うでもなく、感じる。
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波が一度引くと僕は深呼吸する。また波が来る。
避けられない。また僕は波に飲まれる。
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早くなる鼓動。
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見えるきみ。やっぱり笑っている。
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僕は手を伸ばす。君以外に。 「助けてくれ。」とは言えない。手を伸ばす。しかし君以外の彼らは、険しい顔をして、腕を振り払う。手を無視するものも少なくない。今度は僕が少しだけ笑う。今まであった人に感謝する。「くそが」とは勿論一切、思わない。
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かなりの量の水を飲んだ。一層死ねればよかった。息を切らす。君以外はもうみんないない。また次の波が来る。僕は今度も避けれない。波に攫われる。今度こそ死ねたらいい。
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その時、ふっと、きみの方を見る。
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僕はきっと幻想を見ているのか。いや、間違いない。
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君は、僕だった。
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今度は僕が流される君を見ている事に気付いた。
そして気付いた。そうか、君は戦っていたんだな。
誰にも迷惑をかけまいと。迷惑をかけながら。
正しい事だけやりたいと。何が正しいかわからないまま。
死にたい、と。生きたいと叫びながら。
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もうじき夜が明ける。
倒れている君。呆然と立っている僕。
君に手を差し出す。
君は倒れたまま。僕はいう。 「この世界には僕らしかいないんだよ。仲良くしようか。」 君は僕を見る。眉間のシワが強くこちらを見る。
そうか。君は、僕のことが嫌いなんだね。
何も言えないまま僕は君を見る。
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君は急に泣き出す。僕はきみを抱きしめる。ああ。なんてこの世界は汚ねえんだろう。なんでこんなに、冷たいんだろう。
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帰ってこない問いかけに僕は唾を吐き、君と手をつないで部屋に帰った。
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この世界には、僕と君しかいねえ。
また今日も、波が来る。

 

 

 

 

 

 

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