お昼まで寝ていた君

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「今日こそ起きるって言ったじゃん」

 

僕は怒った口調で、しかし、笑いながら君に言う。君は、まだ寝ぼけているようだ。「んーごめん。またやっちゃったかー。」君はボサボサの髪を触りながらお風呂に向かう。僕はも時間を持て余している。「しょうがないから、昼飯でも作ってやるか」僕は簡単にチャーハンと卵スープを作る。学生時代に4年間キッチンでバイトしていた経験から、僕は料理にはなかなかの自信があった。

 

君はお風呂から出ると僕に言う。「おー。でかしたねえ。悪くないじゃん。外で食べるよりも節約だね。」君は僕の頭をくしゃくしゃと撫でる。「ばか。調子のんな。」と僕は笑って言う。「冷めるから早くして。」君にドライヤーを渡すと、僕はお昼のバラエティを一人で見る。笑う俳優に、おどける芸能人。彼らの経験してきた背景を想像してしまい、そこに苦労ばかり見えて、どうも笑えないのが僕の難なところだ。そんなこと考えていたら、君が来る。

 

 

「いただきまーーーす」君はスプーンに向かって、優しい息をかける。次に小さな口でチャーハンを食べる。「うまあい」君は200点の笑顔で僕に言う。「まったく…」

 

ところで僕の人生、これまで良いことばかりではなかった。かといって、悪いことばかりでもなかった。「平凡」の2文字がお似合いだった。正直な話、いつ人生終わっても良かった。本当にだ。もちろん、君に会うまでは、だが。

 

僕は外見も中身も平凡な男で、個性もない自分が嫌いだった。
君は容姿こそ普通だが、とても、綺麗な心を持っていた。
綺麗なものを綺麗ということができて、そうでないものを愛らしいということができる女性だった。
美味しいものを美味しいということができて、そうでないものを個性的な味と得る女性だった。
彼女の心は透き通っていた。
とても綺麗で、自由で、強い心を持っていた。

 

 

「ふああ。めっちゃ美味しかった」君は言った。食べるの相変わらず早いな…。僕も急いで平らげる。今日の予定は、16時からの映画鑑賞だ。時計の針はもう14:30を指している。君は急いで化粧をして、僕はワックスをつけた。「お、今日もかっこいいねえ」君は僕に言う。「そちらも。」僕は少しだけ照れて目を見ないで言う。「そろそろ出ようか」僕は君に言った。


僕は玄関の前に来て、学生証を忘れていたことに気づく。あれがないと映画の割引がされない。「ごめん、ちょっと先外出ていて」僕は君に言う。「おけーい」君は相変わらず笑顔だ。僕は君に背中を向け、口を動かす。「かわいい」

 

学生証は思った通り机の上にあった。
それをポケットにしまい、僕は玄関に向かう。
とん。床を踏む。
とん。床を踏む。
とんっ。玄関につく。
僕は急いでドアを開けた。

 

「おまたせっ」

 

そこに君の姿はなかった。

 

 

母が後ろからやってきて僕に尋ねる。「大丈夫?」僕は、ははっと笑い答える。「…大丈夫だよ。ありがとう」そうか。君とはずっと前に…。

 

僕はその足で近くの公園まで歩き、タバコを吸う。

 

時刻はまだ午前の10時。
映画を見るには早すぎるみたいだ。

 

 

さて、今日は君抜きで、何をして生きていこう。

 

 

 

 

 

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