切れなかったツメ
僕と君は喫茶店に入る。「喫茶店」と「カフェ」の違いってなんだろう。君と僕はそんな話をしている。
この喫茶店はコーヒーが美味しい。
君がそんな話をしている。僕は好きな人と好きなものを食べたり、飲んだりする時間が大好きだ。
君はサンドイッチを食べている。
どうやら軽食も美味しいようだ。
困ったことに僕は、何を食べても飲んでも味がしない。だが、とても幸せだ。つまるところ僕は、好きな人が美味しいものを美味しいと言ってくれるこの空間が好きなのだろう。
僕はいつものように笑顔で、君の話を聞いていた。
僕と君は今日が3回目のデートだ。
「デート」という言葉が付き合ってない2人を指してもいい言葉なら、そうであるのだが。
君は相変わらず笑っている。
僕は極力何も考えないようにしている。
ポケットに手を突っ込み、君の横を歩けるだけで僕は世界一幸せな気持ちになる。
今日も君はとてもかわいい。
喫茶店を出て、
君と僕は近くの雑貨屋さんに入った。
君は笑っている。
何がそんなにおかしいんだろう。
だが、君の笑っている顔を見ていると僕まで笑ってしまう。
普段はまったく笑うことなんてないのに。
また、君に会いたくなってしまう。
僕はポケットに入れた手を、グーの形にして強く握った。
中指の爪が手のひらに食い込む。
痛い。
だが、これでいい。身体的な痛みはまだ耐えられるし、こうでもしないと僕は、いつ自分を見失うかわからない。
君の好きな僕はいつも冷静で、聞き上手で、君につられて笑っている。
君はラインがとても遅い。
2日に1回、1通短い返事をするくらいだ。
僕はその遅さに特に意味づけはしない。
だって一緒にいる君はこんなに楽しそうだから。
ところで会っている時間が、会ってない時間よりも短いのは当然の話だ。しかしこれは、「不安で窮屈な時間が、幸せで安定した時間よりも短いこと」と同意ではないだろうか。
僕の爪はさらに手のひらを痛めつけた。
しかし僕は、ほとんど身体的な痛みを感じなくなっていた。
ふう。
僕はため息をついた。
君と僕は歩いている。
君は相変わらず楽しそうだ。
僕は…どうだろう。
最近は君と一緒にいる時間でさえ不安で窮屈になってしまうこともある。
「そろそろ終わりにするか。」
僕は下を見て少しだけ笑う。
そんなふうに100回目の決断をしたって、
どうせ
次回のデートも
爪は切らない。