右脳に刻まれた君の目


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季節は春といってもまだまだ、
夕暮れは時は寒かった。


僕は公園で一人煙草に火をつけ
今日のデートを思い出す。

 

今日は大阪の有名な水族館に行った。
大きな魚。色鮮やかに群れをなす魚。
あまり動かないで砂の上に寝ている魚。

 

それらを眺める君。

 

僕は魚を眺める趣味は無いが、
君を見るのはとても楽しく、その瞬間、心から充実した気持ちになった。

 

 

今日君は、あまり言葉を発しなかった。

 

遠いところを見るように、近くの魚を見つめていた。

 

昔を思い出しているのか。何かを考えているのか。それともただ疲れているのか。心配されることを嫌う君に僕は何も聞き出せなかった。

 

僕たちはお昼にトルコ料理を食べた。実は僕も知らなかったことだが、トルコ料理は世界三大美食と言われており、数々の美食家の舌を唸らせてきたらしい。

 

お昼を食べながら僕たちは、あまり多くは語らず、「トルコ料理の美味しさがわからない」
とだけ静かに笑った。

 

僕はそれだけで、
君を独占できているこの時間があるだけで
とても、幸せな気持ちになった。

 

君は静かに笑っていた。
とても静かで、笑っているのかわからないほどだったが。

 

その後僕たちは、

水族館の近くにある観覧車に乗り、
大阪の街を見渡した。


実のところ大阪の街なんてどうでもよかった。

 

やっぱり君は綺麗だった。

 

そして君がまた

「その目」をしていることに気づく。


君ははるか遠くを見ていた。


僕は耐えられなくなり君に話しかける。

何を言ったかは、覚えていない。

 

君は少し口角を上げて、
少しだけ言葉を発した後に、
また、外を見た。

 

小さな密室にまた訪れる沈黙。

 

僕はその後、ふと君に言った。

 

何かを言った。

 

君の「その目」は、今度ははっきり僕を捉えた。「その目」は、もう僕を離さない。

 

私を見て。私を覚えていて。私はずっとあなたと…。

 

彼女は「ごめんなさい」と言った。


そして、
言葉に困ったのか僕をじっと見て、少し困った顔で笑った。


僕も…笑っておいた。

 

外は悔しいくらいに晴れていて、

君の困った顔も、悔しいくらいに綺麗だった。

 

 

「ああ。もう会えないんだな。」

 

 

僕は後悔した。
心の蓋が取れて、口から滑り落ちた
たった2文字を
僕は永遠に悔やみ続けると確信したのだ。

 

 

観覧車は地上に着き、君は
「今日は楽しかった。ありがとう。またね。」と少し笑って
小走りで去った。

 

 

タッタッタ。君は走る。

 

 

その時君は一度だけ振り返った。


「その目」はもう僕を見ていなかった。

 

長い1日だった。

僕はタバコの火を消し、誰も待っていない家に帰ろうと立ち上がる。

 

駅に向う途中、ふっと君の目を思い出す。

 

空っぽで遠くを見ていて、何も捉えていない。
捉えようとしていない。


でも、

 

悔しいくらい綺麗な、

 

 

その目。

 

 

#目 #小説 #モナカ #右脳